日本における課税所得の弾力性と最適所得税率:
全国消費実態調査の個票データによる分析

北村 行伸
宮崎 毅

August 2010
(Revised: September 2010)

Abstract

アメリカには課税所得の純税率弾力性を推定した研究が蓄積されているが、日本では個票データを用いた推定はほとんど行われていない。本稿では、『全国消費実態調査』の個票データを用い、1995 年と1999 年の税制改正に着目して処置群と比較群を定義して日本における課税所得の純税率弾力性を計測した。まず、Saez et al (2010)に従い、事前・事後推定、シェア分析で基礎的な推計を行った後に、性別、婚姻状況、年齢、地域トレンドなども考慮した差の差 (Differences-in-difference: DID)推定で課税所得の弾力性の推計を行う。さらに、サンプルの範囲や就業形態の相違を考慮した推計や、所得税の限界税率への反応や課税所得ではなく所得金額の弾力性なども推計し、推計の頑健性を確認した。推計の結果、日本における課税所得の弾力性は0.2-0.28 程度であることがわかった。一方で、サンプルの範囲や処置群と比較群の定義によって、弾力性が大きく異なることも明らかになった。また、非線形最適所得税の理論モデルで得られている結果をもとに、日本における課税所得の弾力性や所得分布のパレートパラメータの推定結果で最適最高税率を計算したところ、日本における高額所得者の最適所得税率は概ね50%より大きくなることが示された。

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