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一橋大学関西アカデミア第3回
公開討論会「金融危機から経済危機へ-景気の行方と政策対応」の模様

北村行伸(一橋大学経済研究所)

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2009年3月7日午後1時半より5時までザ・フェニックスホール(大阪 ニッセイ同和損保フェニックスタワー内)にて第三回一橋大学関西アカデミア「金融危機から経済危機へ―景気の行方と政策対応」を開催した。200名近くの参加者が集まり、熱のこもった議論が展開された。

この企画はグローバルCOEプログラム「社会科学の高度実証・統計分析拠点構築」の主催で、昨年来、世界経済に大きな波乱を巻き起こしている金融危機に関して、本学の金融専門家が集まり、この危機の本質、マクロ経済学への含意、労働経済学、国際協調、といった複合的な観点から解説を行ったものである。昨年の11月19日の本学兼松講堂で行った「金融危機に関する公開討論会」の続編に当たるものである。

当日のパネリストは斉藤誠(経済学研究科教授)、塩路悦朗(同)、川口大司(同准教授)、武田真彦(経済研究科教授)、コメンテータに高橋亘(日本銀行金融研究所長)、大竹文雄(大阪大学社会経済研究所長)、小野善康(大阪大学社会経済研究所教授)を迎えた。コーディネーターは北村行伸(経済研究所教授)が務めた。

討論会は、まず始めに、北村が各パネリストに質問をし、それに対してパネリストが各自の考えをまとめて議論するという第1部と、それに対するコメンテータからのコメントおよびフロアーからの質問を中心にパネリスト・コメンテータが自由に討議するという第2部からなる構成で行った。

斉藤は「金融危機の本質とは?」という問題に対し金融危機の原因と波及メカニズムを考える重要性を指摘し、サブプライムローン問題の教訓、ヨーロッパ・日本への波及のメカニズム、危機収束の見通しについて語った。塩路は「景気後退とマクロ経済政策」ということで、2008年10月以後のマクロ経済の急速な落ち込みについて事実関係を確認した後、なぜそこまで急速に景気が悪化したのか、財政政策や金融政策で何ができるのかを論じたが、それらの政策効果は限定規定であり、政策を実施するにしても将来の道筋を明らかにした支出をすべきであるとした。川口は「現下の雇用問題と政策課題」というテーマで、雇用に関する状況を概観し、規制緩和や構造改革によって非正規雇用が増えたのか、それとも内生的に多様な働き方をする人が増えたのかを検証した。さらに政策課題として短期的なショックの吸収をどうするかという論点と長期的な格差問題への対応という論点を提示した。武田は「金融危機と国際政策協調」ということで、いかにして現在の金融危機・経済危機からの脱出を国際協調の枠組みで行うかという点について議論した。武田の議論は現在の危機の原点には米国問題があり、その国際的は波及の深刻さに鑑みて、米国内の政策対応を求める仕組みが必要であり、それを米国内での政策議論にとどめずに国際協調の枠組みのなかで、ルールの共通化を図るべきであるというものであった。

第2部では、まず高橋所長が金融危機の背景と今後の対応の方向性についてコメントし、日本経済の輸出依存の内容が2002-2004年と2005-2008年では変わってきている点、具体的には直接投資関連の輸出から自動車などの消費財輸出へとシフトしていることの問題点を指摘した。さらに世界経済のグローバルインバランスに関しては東アジアの経常黒字と米国・英国の経常赤字の実態を示した後、銀行の対外債権残高が2003年以後急激に伸びていること、欧州系銀行が債務を増やしてきたことが現在の危機の根源にあることを指摘した。大竹所長は「景気悪化と雇用問題」という観点から、今回の景気後退は明らかに需要減少の結果であり、これは日本に限らず世界的な規模の不況であり、日本国内の生産性の低下や制度的障壁によるものではない点を明らかにした後、バブル崩壊の理由も日本のバブルの場合とアメリカのバブルでは違うだろうという見方を示した。雇用調整に関しては非正規労働者の調整が大規模で起こっているが、これは予測されたことであり、それ自体が問題というべきではなく、問題はそのような非正規化の促進は人的資本投資の低下により生涯所得が低下すること、特定世代(若年男子)への非正規化が集中することが貧困問題に結びつくことを指摘した。規制緩和の効果はある程度認めつつも、産業間での労働移動も制度的硬直性により容易でない点も指摘した。小野教授は金融危機の見方として、サブプライムローン問題がなければ危機はなかったのかという問題提起をし、バブルは資本主義経済の下では必然的に発生するものであるという自説を紹介した。また、財政政策については乗数効果が低いということが問題ではなく、有効な財政支出はいずれにしても必要であるとの見解を示した。これらのコメンテータのコメントに対してパネリストが応答をした。

会場からは「国際的な金融規制は必要か」「内需中心の産業構造への転換は可能か」「賢い財政政策の内容とはなにか」「景気回復の時期とそのための具体的施策は」などの質問が出て、討論を行った。財政政策の出動は不可避であるが、その賢い使い方についてはさらに吟味精査する必要があるとの認識の一致をみた。

金融危機問題はまだ収束を見せておらず、有効な景気対策も実施されるに至っていない。臨機応変にこのような公開討論会をグローバルCOEの事業として開催していければと考えている。

(2009年3月)