途上国の開発を考える際、家計内での資源配分問題が重要であるとの認識が近年高まってきている。それは、家計内資源配分に偏りがある場合、家計構成員の間に格差が生じ、政策介入の効果や帰結に多大なる影響を及ぼす可能性があることに起因する。家計を一つの経済主体と想定する場合、家計内での貧富の偏りが無視されるため、貧困状態が過小評価される可能性が高くなることが先行研究により明らかとなっている。また家計を一つの意思決定主体とみなした場合、政策目標の効率的な達成が困難となることも示されている。このような問題を背景とし、本稿ではケニアの農村のマイクロデータを用いて家計の意思決定過程に関して検討を行った。実証分析では、特に夫婦各々の不労所得に注目し、両者の交渉力の違いに注目した。その結果、妻の交渉力が高いほど妻の選好を強く反映した資源配分が実現するというノン・ユニタリー・ハウスホールド・モデルが適切であることが示唆された。