中国では1990 年代末から、「農業産業化」と呼ばれる農業政策が本格的に実施されてきた。そのなかでアグリビジネス企業である「龍頭企業」と農民との間の仲介機構として、農業協同組合組織である「農民専業合作組織」が大きく注目されている。本稿では、中国社会科学院経済研究所を中心とする国際研究チームが2002 年に実施した大規模標本調査(「CHIP 調査」)の個票データ(世帯・行政村)を利用して、農民専業合作組織設立の決定要因と農業経営の効率性に対する農民組織加入の効果を定量的に分析した。
行政村内の農民専業合作組織の有無について、プロビットモデルを推計した結果、農業産業化の発展度に関する変数とネットワークに関する変数が有意な効果を持つ一方、行政村の経済的特徴を表す変数の多くは有意ではないことが示された。さらに、農民組織加入の内生性を操作変数によってコントロールした農業生産関数を推計したところ、農民組織への加入は耕種業の生産性向上に対して有意な正の効果をもつことが実証された。
本稿の分析結果から、中国において農民専業合作組織の普及と農家の経営効率性を向上させるためには、上級政府からの政策的支援を受けるための人的ネットワークを構築することが必要であると同時に、商品作物の普及や農業関連サービスの強化といった「実体のある農業産業化」を促進していくことが重要な政策的課題であると指摘できる。