本稿では所得格差研究の問題点を補完すべく、地域間の経済環境の特徴を表わし得る指標について議論する。統計局を中心とした公式統計資料を用いて農業、工業両部門間の製品相対価格を算出し、その地域的な違いを財市場の特徴(非公有企業数比率)と労働市場の特徴(農工間賃金格差)から説明することを試みた。各省の非国有企業数比率、一人当たりGDP、農工間賃金格差を説明要因として行った分析の結果、経済発展地域では農工間の製品相対価格が小さくなることが確かめられた。特に賃金格差との関係は、中国の労働市場の分断を再確認する結果となった。賃金格差が大きい労働市場を擁する地域は、より発展した経済を有している。
省や地域レベルで捉えられる産業構造や財市場の特徴が、都市と農村を含めた労働市場に及ぼす影響を分析することは、農村労働者の賃金決定要因を分析した先行研究を補完するものとなるであろう。分析の展望としては、本稿で得られた地域的経済環境の差異を表す指標を、逆に説明要因として各種所得、賃金の情報に対比することである。これらの分析は、ミクロ的な家計調査と統計局によるマクロ的データの、適切な組み合わせによってのみ成し得る。