経済活力を高めるためには、新規開業の促進だけでなく、どのような企業が存続・廃業するのか、またどのような創業者が事業を継続する意思(あるいは廃業・退出の希望)を持つのかを明らかにしなければならない。しかし、企業家の退出の要因に関する研究は少なく、新規開業企業の創業者の事業継続意欲、あるいは廃業・退出の希望に関する分析は、おそらくデータの制約のために、ほとんど行われていない。そこで本稿は、総務省「就業構造基本調査」の匿名個票データを用いて、開業から5年半未満の自営業者を対象として、事業継続を希望する要因を計量的に明らかにする。また、退出希望を転職(雇用者化)希望と引退(非労働力化)希望に分け、多項プロビット分析により、両者の要因の違いを識別する。
分析の結果、1) 事業継続意欲は学歴の高い自営業者において相対的に高く、その傾向は事業収益を一定としてもあまり変わらないこと、2) 事業継続意欲は非正規雇用から開業した自営業者において正規雇用出身者より低く、その傾向は事業収益を一定としてもあまり変わらないこと、3) 60歳以上の高年齢層と若年層の女性において事業継続意欲が低いこと、4) 女性は男性より事業継続意欲が低く、特に未就学児をもつ女性は雇用者への転職志向が強いことが明らかにされた。また、新規自営業者の事業継続意欲の決定要因は、他のいくつかの点でも男女で異なることが示された。しかしおそらく、最も重要な発見のひとつは、日本の新規開業者の9割以上が事業の継続を望んでいるということである。