消費税の再検討:日本における消費税改革の行方

北村行伸

January 2013

Abstract

本稿では2012年8月の国会で可決された消費税増税法案を受けて、今後の消費税をどのように考え、制度的な問題にどのように取り組んでいけばいいのかを論じている。先ず、消費税制の実態として消費税率を5%から10%へ引き上げることによって、 約12兆円の増収が見込まれることを、マクロデータにより検証した。さらに消費税収関数を推計し、消費税がきわめて効率的な徴税制度として機能していることを確認している。さらに消費税執行上の問題点を検討し、今後の改善課題を指摘している。次いで、消費者行動と最適消費税の理論を、具体的な実証分析との関連で説明し、消費需要関数の推定に結びつけている。1985年1月から2012年4月までの『家計調査』の2人以上勤労者世帯の全国平均値の時系列(公開)データを用いて実証した結果、食料品と保健医療のみが、自己価格弾力性が負になり、他の品目は弾力性がゼロであることが明らかになった。このことから、先ず、食料品と保健医療以外の品目に関しては単一税率を課すことが正当化されること、そして、保健医療に関しては、既に多くの非課税取引が認められており、実効税率は低いので、軽減税率を課す必要はないと判断されると論じている。残る食料品に関しては、実効税率は消費税率に若干の上乗せがあり、軽減税率の適用を考えてもいい唯一の品目であるが、食料品需要のシェアはかなり高く、逸失税収をどこまで認めるかということ、そして食料品の需要品目の中で、軽減税率の適用、非適用を決めることには大きな恣意性や政治力がかかることなどから、当面は軽減税税率の適用を認めないという判断もあり得る。

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