日本をはじめとする先進国における医療制度の在り方に関する議論は財政の困難と相まって国民の関心が高い分野となっている。よって、生産性の推計にも有用であるような医療の実質ベースでの産出の把握は重要である。これを正確に把握することにより、医療の社会保障としての意義を議論したりその質の効果を計測したりできるばかりか、GDPのより合理的な推計が可能となる。その手法の1つが、産出量法である。
本研究の目的は、産出量法による医療のアウトプット計測の現実のJSNAへの応用可能性を検証し、医療のアウトプット計測の実施にあたっての検討材料を提供することである。
患者数を利用したCWOI推計結果では、経年的な患者数の変化が小さいためその推計結果も時系列的に大きな変化が見られなかった。他方、質調整指標としてがん患者の生存率を利用したQACWOI推計はいくつかの興味深い結果が得られた。QACWOIの増加率は、CWOIのそれを上回る結果となった。また、QACWOIの増加率は、医療費のそれを下回ることが確認された。
医療全体のアウトプットを計測するには、各種の治療や手術各々に対応したアウトプット計測が必要であり、そのための計測範囲の確定が必要である。反面、仮にJSNAでの推計法を治療単位に変更することができれば、今回の結果を一部反映できる可能性はある。本研究は、産出量法による質調整をおこなった医療のアウトプット計測実施へ向けた1つの道筋を示すことができた。