本稿でタイ、マレーシア、香港、中国というアジア4カ国・地域の上場食品企業を対象に、外国企業によるFDIの地場企業へのスピルオーバー効果を検証した。分析の結果、タイの食料品産業ではスピルオーバー効果が確認され、タイ国内での製品の販売を目的とした「現地志向型FDI」の方が他国の市場で販売することを目標とする「輸出志向型FDI」よりも、スピルオーバー効果は顕著であった。またタイの食料品製造業においては、現地志向型FDIが地場企業の総売上げに対する輸出比率を低くする事も示された。タイの食料品製造業以外のグループでスピルオーバー効果が検証されなかった要因として、マレーシア、香港においては国内市場の規模の小ささいため、地場企業が外資企業に国内市場を奪われた事が想像される。また飲料製造業でスピルオーバー効果が見られなかったのは、食料品製造業に比べ資本集約的であり、先進国との技術ギャップが小さい事が理由として考えられる。